ANNUAL EXHIBITION 2023 KYOTO CITY UNIVERSITY OF ARTS

2024.2.7wed -2.11sun 10:00-18:00

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専攻対談インタビュー

彫刻
吉村 衿菜
環境デザイン
山口 裕也
保存修復
鄭 卉芹
版画
萱原 遊

まずは自己紹介からお願いします。

吉村 彫刻専攻4回生の吉村衿菜です。

山口 環境デザイン修士2回生の山口裕也です。

保存修復大学院2回生の鄭と申します。

萱原 版画専攻4回生の萱原です。

お願いします。今日はスケッチや制作の過程などを持ってきて頂いているので、それを見ながら皆さん自身の作品や大学の移転について、新キャンパスのお気に入りの場所についてなどをお話していきたいと思います。

吉村さんの制作について

吉村 私は卒業制作がまだ決まっていないので、取り敢えずスケッチブックを持ってきました。制作をする時、まずは身体とか記憶の中で感覚をイメージしたり実際に体を動かしながら考えます。途中で自分が今やってることを一旦言葉に置き換えてまた体を動かして、みたいな感じで進めています。

山口 具体的な作品の写真ってないですか?

吉村 あります。パフォーマンスというかアクションを作品にすることが多くて、最近だと水を運ぶ作品をやっていたんですけど…。

動画を視聴しながら

吉村 こんな感じで水の入ったチューブを運ぶというパフォーマンスをしていました。これは彫刻専攻の人に集まってもらって同じコミュニティーの人たちで一つの水を運ぶ、ということを山道を使ってしたもので、皆さんには「水を水平に運んでください」と伝えていました。お互いの関係性や、人はそれぞれ違うっていう前提がある中でそれの丁度間のところを探す、みたいなことを水を運ぶ行為を通してやっています。あとは、前のキャンパスにあった土の家の近くに生えていた面白い形をした木を自分の好きなところで切り取ってきて、それに自分が体を沿わせるようにしてできるポーズを15個くらい考えて、それをレクチャーパフォーマンスする、みたいなこともやっていました。このキャンパスでも自分の体を使いながらパフォーマンスとかができたらいいなって考えているのですが、まだ考えている途中って感じですね。

山口さんの制作について

山口 この夏休みにアイスランド一周旅をしてきて、これはその時のスケッチです。

萱原 へぇ〜、アイスランド。どういう目的だったんですか?

山口 僕は自然に根差した制作をしているので、ちょっとアイスランドに惹かれて行ってみたっていう感じです。旧校舎にいた時には竹のテラスをみんなで作って展示をしたりもしていて、ああいった自然の空気感を追い求めているって感じですかね。

吉村 アイスランドって全然詳しくはないんですが、結構自然豊か…?

山口 自然しかない(笑)アイスランドに行って思ったのは、自然が圧倒的すぎて人の入る余地がないってことです。日本の里山文化的な人と応答関係にある自然みたいなものにどうアクセスするか、ということについて考えるようになりました。直近だと桶を通して自然と繋がる、みたいなことを考えています。最終的にはスケールアップさせて建築まで持っていきたいのですが、そのプロトタイプとして人の行為と自然を繋げる、ということに着目して制作しました。丁度今、滋賀県立美術館で展示しているので良かったら観に行ってみてください。

萱原 琵琶湖のプロジェクトのやつですか?

山口 そうそうそうそう!

萱原 版画の先輩も結構参加していて、それで知っています。

山口 そうだったんですね。

鄭さんの制作について

私は創作ではなく化学検証や色々な文献を参考に制作をしています。平安仏画の国宝1号の普賢菩薩の作品を想定復元模写しています。例えば、この象の足が欠損してしまっている部分を同じ時代や近い時代の作品を参考にしながら復元をします。経年変化によって剥落や変色している絵の具も沢山あるので、これらを機械で測って出てきた元素を元にどの様な絵の具が使われていたのかを検証してから絵を描きます。

吉村 機械が全部調べてくれるんですか?

そうです。あとは赤外線を使った撮影とか。赤外線撮影をすると今は見ることができない墨線が見えるようになるので、それらを用いて検証を重ねます。 仏画によく使われている截金(きりがね)という技法があって、今日は私が作った截金のサンプルを持ってきました。截金の実験だけではなく絵の具や染料の実験もします。こんな感じですね。こういった模写や実験サンプルの作成などを保存修復の専攻ではしています。

山口 実験を重ねて精度を上げていく、みたいな?

そうですね、やっぱり実験がないと原作と近い(同素材同技法の)復元模写をすることが難しいです。それが日本画の模写とは違う部分だと思います。

全部手でされているんですか?

手でしています。両手に筆を持って、片方の手が細く切った截金の線をつけた筆、もう片方が膠をつけた筆で、膠で線を描きながら截金の線を置いていく、という感じです。

おぉ〜

それが截金です。

萱原さんの制作について

吉村 スケッチめちゃくちゃありそう(笑)

萱原 いや、実は思っているほどないです。制作に取り掛かる前に頭の中でどういう作品作ろうかなってすごく考えてしまうタイプなので、実際に手で起こす前には結構時間がかかるんですよ。つい昨日完成したのが…これですね。これをドローイングのまま終わらせずに、写真を撮ってパソコンのCGに一度置き換えてからそれをまた版画で刷って現実に起こす、ということを普段の制作ではしています。元のドローイングが使われることはないので、今お見せしているこの絵はすごいレアだと思います。

吉村 アナログの絵を一旦3DCGに起こしてから刷っているということですが、間にワンクッション入れるのって自分の中でどういった意味があるんですか?

萱原 最初は何でそれをするのかということが自分でも全然理解できていなくて、理解できていないまま進めていたのですが、最近は自分の絵をそのまま提示するのではなくこの紙の上に起こった現象の一つとして見てみたいのかな、と思っています。写真は景色を切り取った途端にそれが過去のものになると思っていて、だから写真に撮った地点で自分のドローイングが今のこの時間を生きるドローイングではなく過去の一地点にあったドローイングだ、というある種の心の安心感から3DCGを一度挟んだ方が自分的にはすごく心地良くなると感じています。

吉村 なるほど。

山口 この3DCGはスケッチブックをスマホで撮るってことですか?

萱原 そうです。フォトグラメトリーとはまた違うのですが、CG内にあるプログラムが勝手にその画像の明度によって明るい部分を手前にして暗い部分を奥に引っ込める、みたいなメカニズムに基づいてこういったイメージを出してくれます。なので自分が描いた黒い線は3DCGの中では溝のように暗く凹んで提示されるというのも面白くて、最近はそれを逆算して多分こう描いたら3DCGに変換した時に立体オブジェとして出てくるだろうな、みたいなことを考えながらドローイングをしています。

山口 建築でいうと図面があってそれを3Dに立ち上げていく、というのと似たところがありますね。

萱原 そうですね、確かに。

萱原 でもスキャンしたら全く別のものになるっていうのは建築とまた別の視点があって未知の世界で面白いです。

新校舎の話題へ

萱原 実はまだ全然新キャンパスの中を回れていなくって…。版画の教室は丁度このデザイン科のスペースの上にあるからこの棟だけはよく来るものの、逆にここ以外は全然行かないですね。

山口 確かに。

萱原 保存修復や彫刻はまだ場所が分からないです。結構探索とかされました?

吉村 一周くらいは(笑)

山口 前の校舎の時のデザイン科はビジュアル・環境・プロダクトがドアと壁で隔たれていたけど、今はこんな風に一連なりになって各専攻が何をしているのかが分かる様になったのは、なんと言うか…

萱原 風通しが良くなった?

山口 そう、風通しが良くなった。仲良くなれるんじゃないかな、と思っています。

吉村 交流はあるんですか?

山口 そうですね。それこそここ(インタビューを行ったデザイン科の共有スペース)がそういう場所になっていると思います。ただやっぱり各棟の隔たりはあるように感じていて、沓掛校舎は木や草が生えたカオスな場所にみんなが好きなもの作ったり置いたりして外部を通して交流があったな、と。例えば彫刻専攻の前では炊き出しをしていたり、環境デザインだと僕がテラスを作ったり、1回生が秘密基地を作っていたり、みたいな。ああいう雑多な場所があったから、棟が別れていても交流というかあそこ何してんねんやろって気にしていたけど、今回は道路が敷地内にあったり、自由に作品を置けそうな雰囲気もまだないから各棟の隔たりは前より大きくなったのかなと思っています。

吉村 道路は影響がでかい気がする(笑)

萱原 心理的な隔たりみたいな?

吉村 信号渡らないといけないっていうのが一つストレスになるかもしれない。

確かに、道路っていう要素は大きいですよね。校舎の中だと保存修復の部屋の前の畳スペース、あそこすごく良くないですか?

すごく良いです。その畳スペースは昼頃によく人が集まってご飯食べたりしています!

楽しそう!あの場所は他の専攻の方も使っているんですか?

そうですね。他の専攻の人たちもそこでご飯したりとか、寝たりとか、ヨガしたりとか。

萱原 ヨガ楽しそう。

あとは、毎週月曜日の17時か18時頃に人が集まってそこで書道をしたりもしています。私は参加してないのですが、そういうのも含めていいなーって思うスペースですね。

あそこは一度しか行ったことがないけど、本当に良いところですよね。

そうそう、気持ちいい。

吉村 寝転びたいなー。

彫刻専攻には寝転べる場所はありますか?

吉村 彫刻の寝転べる場所…。彫刻には前のキャンパスから持って来たソファーがあって、それが部屋の端っこに二つ置かれているんですけど、大体そこで誰かが寝ています(笑)

山口 いいですね。彫刻専攻ってめっちゃ天井高いんでしたっけ。

吉村 まぁ、普通かな。

山口 なんか作業場って感じですよね。

吉村 そうですね、彫刻はこちらのキャンパスに移ってから学部生と院生が一つの部屋にぎゅっと入ったので天井は高いけど、うーん…

萱原 開放感みたいなのは別に?

吉村 ない。

あまり回っていないと言っていた萱原くん的にこの場所良いな、と思うところはありますか?

萱原 そうですね…。昼間眠たくなった時に至る所にコンクリートのベンチだったりとか、なんなら床で寝ても大して汚れないので、昼寝っていう点については色々と考えていますね。

床が前よりも綺麗だから床でも寝れると?

萱原 そう、もうどこでも寝れちゃうなっていうのは感じています。でもそのくらいですかね。まだ全然自分の居場所みたいなのが見つけられていなくて…。でもお手洗いがすごく綺麗なのは何よりも良い点ですね。

山口 確かに、それこそお手洗いでも寝れますよね。

萱原 そうです!もうほんとに寝れちゃう(笑)あったかいし、みたいな。
あとは、個人的に前のキャンパスと比較してすごく感じていることがあるんですよね。僕は沓掛キャンパスの時の通学の際にバスを利用していて、それこそ終バスまで残って制作する、みたいなのが結構多かったんですよ。バスっていう大学の入口と出口になる乗り物が他の専攻の人たちの存在を実感する場所だったな、と思っているのですが、こちらのキャンパスに移ってからは他の人たちがいつどのタイミングで来ていつ帰っているのかも分からないし、どの交通機関を利用しているのかも分からないので、交通の便がすごく良くなった一方で心理的繋がりみたいなものが減ったな、となんとなく感じています。それは良くも悪くもという話だと思うので、何か一概に言えることではないのですが。

吉村 終バスで人が多い時のなんか安心感(笑)自分だけじゃない、みたいな。

萱原 みんな疲れてんな、みたいな。寒かったからね、バス停が。本当にきつかったけど、でもそれも今となっては思い出の一部だな、と。

吉村 なんか、それこそ移転してすぐにキャンパスを一周くらいしたのですが、今ここに来てみると大分専攻色に…

萱原 染まってきている?

吉村 染まってきている、空間が。彫刻はなんかもう、彫刻の雰囲気がなんとなく部屋にできているんですけど、ここもまたデザインっぽい。彫刻とはまた違う雰囲気がします。

萱原 建物が新しいからこそよりその専攻の特色が現れやすい、みたいな。美意識みたいなものというか、一種の価値観みたいな。

山口 各専攻の?

萱原 そうそうそう。

山口 緑置きがち、とか。

萱原 椅子が多い、とか。

吉村 彫刻専攻は棲みつくみたいな感じ(笑)

萱原 寄生するみたいな?

吉村 そうそうそう。なんか日常と制作が地続きにあるという感じです。

山口 それこそ一つの部屋やしね。

吉村 そう。なんかキッチンを無理矢理作ってみたり。

楽しそうですね。ではそろそろ時間も良いところなので終わりましょうか。楽しいお話をたくさん聞けてとても勉強になりました。今日はどうもありがとうございました。


  • インタビュアー大谷 花
  • カメラマン大城 咲和
  • 対談場所E棟 デザイン科共有スペース